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勝利の報酬①
智裕は正門の前でインタビューなどを一通り終えると、荷物を取りに部室に戻った。まだベンチ入りのメンバーは残ってスマホを確認したり、着替えたりしていた。
「つかれたー!もー、ダメだ!明日練習出来なーい!」
智裕は部室の床に転がった。
すると制服に着替え終わっていた野村が智裕の胸元にソーダアイスを落とす。智裕は寝転んだままそれを開封して口に運ぶ。
「松田くん、今日はいやに気合い入ってたね。」
「いやー、だって今日最後かもしんなかったわけだしさー。ねー、堀先輩。」
「松田、行儀が悪いぞ。」
「ふぁーい。」
智裕はしぶしぶ立ち上がって、シャリシャリとソーダアイスを食べながら歩く。
すると、足が何かにぶつかる。見下ろすとそれはうずくまった直倫だった。
「赤松?どうした、腹壊した?」
「……………いえ。」
「あー、わかるよわかる。兄貴に勝利したけど家の立場上これでいいのか、と葛藤しているんだな。」
智裕はしゃがんで、直倫の背中を叩きながら推測で慰めた。
「裕也 、先輩から……メッセージ来てて……。」
「裕也先輩」という固有名詞を聞いた瞬間、智裕は直倫から離れた。智裕にとって裕也などどうでもいい存在だったからだ。
近くにいた野村は何かを察して直倫を慰めた。
「あー、赤松くん…あの、ね、大竹くんは赤松くんのこと、すごく良い後輩だって言ってたよ。だから、その、赤松くんの思うような付き合いにならなくても、これからも教室に遊びにおいでよ。ね?」
「野村先輩……違うんです。俺、今すげー嬉しくて、泣きそうなんです。」
「え?」
直倫は顔を伏せたままスマホの画面を野村に見せた。少し気になった智裕は野村の後ろからこっそり覗く。
智裕と野村の絶叫が部室内に響いて、堀が「うるせーぞ!」と怒った。
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