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アカマツくんの家②

「な、直倫さーん……これは漫画の世界じゃないですよねぇ?」 「そんなに驚愕するほどの部屋じゃないですよ。1人で暮らすには広いですけど普通です。」  しかし裕也たち地元民にとってこのマンションは見上げる存在だった。  母や姉はこの近くを通るたびに「はぁ…こんな高級マンション、1度でいいから住みたいわぁ。」とボヤいていた。案の定ここら辺にはプチセレブが増えたと姉が(ひが)んでいた。  裕也は今そのプチセレブと一緒にエレベーターで最上階を目指していた。 (やばい、すげーよ…トモとか宮西んチ行くときのオンボロエレベーターと全然ちげぇ…あれガタゴト音するし、何このスーッてスムーズで静かなエレベーター…。)  完全に萎縮してしまっている。これで賃貸とは、家賃も気になってくる。  エレベーターが開くと、なんだか高級そうな石で敷かれた廊下に出る。そして直倫が止まってカードキーを取り出したのは1番奥の部屋の前だった。 「か……角部屋かよ…。」 「ここが空いていたんです。さ、どうぞ。」  直倫がドアを開けて裕也を中に入るように促した。  裕也は「おじゃましまーす。」と緊張しながら入る。後ろから直倫が照明のスイッチを入れると玄関と廊下が明らかになる。 「広っ!!!!!!」 「そうですか?」 「いやいや声反響してる!若干!めっちゃ広っ!」  今の裕也はこの部屋には完全に場違いな格好だった。    「早く上がって下さい。」と言われてビーサンを脱いで、直倫が差し出してくれたスリッパを履き、一歩一歩震えながら廊下の先へ進んでいった。

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