417 / 1000

マネージャーの亀裂②

 元々は県予選も初戦を突破出来るかどうかくらいの弱小野球部だった。  それ故に練習も雰囲気も緩くてテキトーにしていれば良かったので、坂口も男子との出逢いを期待するだけで入部した。  しかし昨年、日本代表にもなったことのある1年の投手が入ったことでそれまで保たれていた均衡が崩れてしまった。  そして暴力事件、試合出場及び部活動の停止。坂口もフェードアウトしてしまおうと思っていた。  だけどその決意は揺らいだ。 「坂口。」 「何?(ほり)くん。」  坂口は主将(キャプテン)になった堀に想いを寄せていた。そして彼は野球部の再起を目指していたからだった。  そして4月になると、残っていたマネージャーは自分だけだった。  堀との接点が欲しかった、堀の近くに居たかった、ただそれだけで頑張れた。  なのに、県予選を控えた5月の後半、坂口が最も恐れていたことが起こった。  天才的左腕・松田智裕(トモヒロ)の復活。  更にすぐ後、森監督が新マネージャーとして2年の野村克樹(カツキ)を引き入れた。  知識も経験も豊富で2年在籍している坂口よりも信頼されるようになり、昨年までレギュラー漏れした部員から選んでいたスコアラーを任されベンチ入りしている。  一方で坂口は県大会はずっとスタンドから吹奏楽部と一緒に応援をするだけだった。 「野村知らないか?投手入れた守備練習について話したいんだけど。」  此処にいる理由でもある堀でさえ、坂口を必要としなくなった。  坂口はドリンクを乱暴に置くと、走って逃げ出した。 「坂口⁉︎」  堀は呼び止めるが、坂口の耳には届かなかった。

ともだちにシェアしよう!