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マネージャーの亀裂⑤
「君……1年生の、水上 くん…?」
背が高い黒髪短髪の男子生徒を野村は知っていた。
学校内でも有名であったが、なにより、智裕と仲良しだと認識していた人物だった。
「え……どういう、こと?」
「………すいません……俺、まっつんが好きなんです。」
「………えっと、それは…恋愛感情、で?」
「はい。」
「………だから、先生と松田くんのこと…。」
高梨や若月からうっすら聞いていた水上のこと。野村は拳に力を入れた。
「アンタも知ってるみたいね。あのホモ野郎のこと。」
坂口は鼻で笑いながら野村に言い放つが、野村は1つ咳をした。
「だから何?」
「え、普通にキモいでしょ?エースがホモとかヤバいし。」
「松田くんは元々、というか今も性嗜好はノーマルでスレンダーなお姉さんに虐められたい願望があるドMですけど、好きになった人の性別が男だったってだけで、俺たちとなんら変わりないですよ。」
ニコリとしているが、眼鏡の下の瞳は負の感情を帯びていた。
水上も思わず一歩下がってしまう。
「何言ってんの?意味わかんない。どっちにしたってキモいし、アイツもアンタも邪魔だから。ね、水上、今度こそあの2人をズタズタに引き裂こう?野球部 をボロボロに崩壊させた…私は腹の虫が治んないのよ!」
「……俺も今から手ぇ引くわ。」
水上はお手上げ、というジェスチャーで坂口を否定した。
「何でよ……アンタは松田と石蕗が邪魔なんじゃ…。」
「坂口さんってさぁ、間近で県大会見てたくせに何も感じなかった?」
「はぁ…?何よ。」
「俺は画面越しでも感じた。気迫とかオーラとか全部。その中には何かを守るような気負いさえあった、それらが圧倒的で強豪の聖斎を破った……ああ、俺の大好きなまっつん戻ったなぁって嬉しかったよ。だからもう姑息な手を使うのやめた。」
水上は坂口ににじり寄ると、坂口の手にした写真を奪い取った。
ちらりと見えたその写真には、坊主になる前の智裕と拓海があの公園で寄り添って座っている姿が写っていた。
(あー…あとで松田くんは叱っとかないとな。)
「大体なんなのエースの復活って……マジでウザい!もっと左手やっちゃえばよかったのよ!二度とボール投げられないくらいにさぁ!」
野村は理性の糸が切れた。
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