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いざ、馬橋学院へ⑥

 中川がバスを降りると、1番前に立っていた主将(キャプテン)金子(かねこ)が話しかけた。 「あーあ、昨日の夜からはしゃいどったもんなぁ。」 「ホンマ大変やったで、俺と四高(アッチ)のまっつんが。」 「あははは、まっつん相変わらず遊ばれるんやなぁ。ハチローその辺転がしとったらええわ。」  中川は金子の言う通りに、入り口の植え込み付近に八良を雑に置いた。  それでも八良は起きなかった。  やがて四高野球部が続々と降りてきて、バス下に入れてた荷物を次々と受け取る。  そして智裕が降りてくると、馬橋の野球部が騒ついた。 (え?何、俺なんかした⁉︎) 「やかましで。静かにせぇ。」  金子がやんわりと一喝した。その声に智裕は気付いて荷物を受け取ると金子に近寄った。 「金子先輩!お久しぶりです!」 「まっつん、元気しとったか?」 「はい、なんとか。先輩すごいっすね、馬橋の主将だなんて…。」 「面倒ごと押し付けられただけやで。」  智裕は3年前のU-15でチームメイトから遊ばれて、その逃げ場所が金子だった。当時もチームの主将でみんなをまとめていたしっかり者だったので、智裕は本当の兄のように慕っていた。  金子は犬のように駆け寄ってきた智裕を、あの頃と同じように頭をポンポンと叩いて労った。 「駿太から聞いたで。なんやハチローが最初(ハナ)から迷惑かけたみたいやな。」 「あー…まぁ、慣れてますから。それに突然インタビューされてテンパってたから八良先輩来てくれて助かりました。」 「そっかそっか。」  金子は仏のような笑顔を智裕に向けて、1つ咳払いをする。

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