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エガワくんの約束⑤
一起が家に帰ると、弟はぐっすりと眠っていて、食卓で母がパソコンに向かっていた。
「おかえりー、遅かったわね。」
「あー、ちょっとそこで知り合いに会ってさ。」
「ふーん。コーヒー飲む?」
「うん、ありがとう。」
一起は弟が寝ている部屋に入って鞄を置いた。
弟は近所の友達と毎日外で遊んで肌は黒く灼 けていた。子供らしい寝顔を見て一起は小さく笑って食卓に向かった。
「はい、どうぞ。」
一起が椅子に座ると母は一起のマグカップに淹れたコーヒーをテーブルに置いた。
「ありがとう。」
一口飲んで、小さくため息をこぼす。
「さっきね、星野先生がいらっしゃったのよ。明後日から1泊息子さんお借りしますって。」
「……あ、うん…関西行くって…。」
「松田くんの試合でしょ。お母さんも休みだから純希 と一緒にテレビで見るわよ。職場も四高・松田フィーバーよ。」
「……そんなすごいの?」
「もーすごいわよ。松田くんは息子の友達なんですよーって言ったら高校野球ファンの上司が食い付いてくるし、松田くんについて熱く語られたし…本当はすっごい優しくて柔らかい性格の子なのにって心の中で笑っちゃったわ。」
「その人たちは、松田のことなんて言ってた?」
「んーと……復活した根性上がりのエース、だとか、本当に強い!だとか、天才だからいつかメジャーに行く!とかね。」
「本当はその正反対なんだけどね。」
母と一起は笑い合った。
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