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激闘の日【朝】②
「第3試合だと16時頃なんだ……。」
「多分今年の1回戦で1番客が入る試合になるぞ。なんせ『W松田』の先発だからな。」
「2人ともそんなに凄いんだ……昨日グループチャットで送られた動画を見ると、ただのお笑い芸人みたいだったけど。」
一起は数日前に着信した動画をサイレントで流した。関西の洗礼を存分に受けていることがわかる。
「これ何だろうな……乳首ドリルとか、脇やめろー、とか…。」
「大阪で流行ってんだろう。しっかし遊ばれまくってるなウチのエースはよ。」
「えっと…このオカッパカツラの人が松田八良 投手で、この大きい人が中川 駿太 選手……どちらも日本代表か……。」
「素顔はバリバリのお笑い大好き関西人なんだな。」
裕紀は昨日買った高校野球を特集した雑誌を片手に一起と話していた。
「松田…石蕗 先生と別れてた時、なんかとんでもなく怖かったから……松田が野球するってあんな感じなのかなって思った…な……。」
「……多分今日はそれ以上だと思うぞ。ま、俺らは遠くから見とくしかねーけどな。」
「そ、だね……。」
一起は車窓に目を向けて、震えそうな手をギュッと拳で握る。
その手に一回り大きな手が乗っかる。
「なんでお前が緊張すんだよ、ったく……可愛いな。」
「ちょ……手、見られたら……。」
「いいだろ手ぇくらい。」
一起が拳をゆるめるとすかさず裕紀はスルリと指を絡めてきた。
「ふぁ…早起きしたし、寝よ。」
「え、ちょ、ちょっと……。」
「おやすみー……。」
「おやすみって……はぁ…。」
裕紀は一起の手を握ったまま、くてん、と眠りについた。一起は指先から、ドクン、ドクン、と熱くなる。
チラリと裕紀を見上げれば、実は長めの睫毛や少し高い鼻筋、形の良い唇、と異性なら放っておかないくらい整った端正な顔をしており、その1つひとつに胸が高鳴る。
(……何で俺みたいな男なんだろう。もっと可愛い女性だったり、男性相手だとしても石蕗先生くらいの綺麗な人だってオトせるだろうに。)
「意味わかんねー…。」
窓から富士山が見えてきた。
まだこの2人の旅は始まったばかりだというのに、一起の心臓は最高潮にバクバクと動いていた。
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