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激闘の日【朝】③

 馬橋学院の野球部寮の食堂は、昨夜の夕食時よりかなりピリついた状態だった。  初日の夜が嘘のようで、四高と馬橋はキレイに分かれて、仲が良いはずのエース同士は1番遠くに離れていた。  県大会の決勝の日でも四高のエース・智裕はスタジアムに向かう電車で「もーやばい、ゲロと心臓吐くー。」などと零していたのだが、今日は一言も発していない。イジれる雰囲気もなかった。  今の智裕に普通に声をかけられるのは鋼の心臓を持った女房役の清田(きよた)だけだった。 「松田、この後最終調整するぞ。」 「おう。」 「まださっきの練習じゃ、アレとアレのコントロールが甘かった。詰めるからな。」 「…おっす。」  その様子を見ていた他の部員たちは「すげぇな清田。」「さすがだな。」などヒソヒソと話す。  野村と増田は拓海と別れて智裕が荒れてた日々を思い出していた。 「うぅ……今すぐここに石蕗先生を呼びたい…。」 「そうだね。とりあえずこの後の調整でせめてあの禍々しいオーラを消すように努力はする。」  野村はいざという時の為に拓海の通信アドレスと番号をゲットしていた。これを最終手段として使うかもしれない、と心の中で呟いた。

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