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激闘の日【1回裏】③
(次はクリーンアップ……大阪の決勝では5番だった賀村か……こいつはちょっと厄介だ…リズム崩れないようにしねぇと。)
この賀村は粘りに粘ってヒットを打つことが多い。ミートすると長打の危険もある。
勢いに乗って三者凡退にしたい清田は昨夜、配球をひたすら考えた。
1球目、速めのシュートを智裕に要求する。様子見の外角低めをバットの先端で捕らえられた。思い切り3塁ベンチの方へ飛びファウルになる。
2球目、智裕の得意な球種でもあるカットボール。曲がりが鋭く反応出来なかった賀村は大きく空振りをした。
(次は……真っ直ぐ…緩急つけるために、遅め を。)
そうサインを出したら、智裕は首を横に振った。
(……松田が首振った……?何でだよ…速球勝負するのか?なら、スプリットか。)
スプリットの要求にも智裕は首を振る。
清田はイラッとしながら智裕の意図を汲み取ろうと思考を巡らせる。
(クリーンアップだぞ……あ…もしかして松田が意識しているのは賀村じゃなくて、ネクストにいる中川か!)
清田はヒヤリとした汗を流すが、マスクの下でニヤリと笑うと、直球勝負を選択させる。すると智裕は頷いて納得した。
(打たれたら覚えとけよ……クソエース!)
2ストライクで追い込んでいた状況、勝負に出た。智裕の投球は清田の手が痛いほどに重く鋭かった。ズドンッという衝撃で清田は飛ばされそうになった。
スピードガンの記録は150km/hだった。
「ストラーイクッ!」
清田は立ち上がってボールをファーストに投げるとすぐさまマウンドの智裕の元に駆け寄った。
そしてミットで口を隠しながら、右手で智裕の腰を強めに叩いた。
「よくやった。あの真っ直ぐ、中川への牽制になったと思うぞ。良い出だしだ。」
「……ああ、次の回、だろ?」
「そうだな。中川、金子…気ぃ引き締めろよ。」
「わかってる。」
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