518 / 1000

激闘の日【3回攻守交代】③

「増田さん……?」 「本当に江川くんは松田くんが大好きなんだね。」 「そういうわけじゃなくて…。」 「まだ打者も1巡してないし、これからどうなるかわかんないから焦らず見守ろう、ね?」 「…………そうだな。」  しかしそう言う増田の手も小刻みに震えていた。一起はその手を包み込むように握る。 「増田さんこそ……大丈夫?」 「……正直、怖いんだよね……松田くんとハチローさん……四高のみんなも…一昨日(おととい)まで一緒に騒いでた馬橋の人たちも……大袈裟じゃなくて殺し合い、みたいな…そういう空気が流れててさ……私が怖がってちゃダメなんだけど……。」 「……増田さん、あまり無理するな…。」 「ううん、私は野村くんを助ける為にここまで付いて来たんだから……野村くんが支えているチームを私も支えないと、ね!」  気丈に振る舞い笑う増田に一起は圧倒された。そして一起にも笑顔が戻った。 「私もう戻らなきゃ、攻撃始まっちゃうし。」 「そうだな。俺ものツマミ買わないと…。」 「え。」 「え?」 「………ヒロキ、さん?」 「……………ち、ちがう!きょ、今日だけ!言わされてるだけで俺の意思じゃなくて!」  増田はニヤニヤしながら一起の肩を叩いて反論の間も与えずその場を去っていった。  かっとばせー! かっわっせ!  スタンドから四高への声援が聞こえてくる。 「……増田さんは、強いな。」

ともだちにシェアしよう!