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激闘の日【3回裏】③

「やっぱあのにーちゃん、気に食わんなぁ…。」  9番バッターの八良の恨み節、清田にはしっかり届いていた。  バッターボックスに入る八良を横目で見ると、八良は三遊間、というよりも直倫を見ていた。 (……この人、赤松を狙ってる…みたいだな……じゃあ簡単だ。)  清田の指示は内角へのカットボール。ミットをかなり八良に近い場所に構えて、智裕はそれに向かって投げる。  球を放った瞬間、智裕は左手の指先が凍るような気がした。 (なんだ……これ……八良先輩から伝わる……怖い感じ。)  一瞬だけ見えた八良の眼は、血走っていた。  キンッ  金属の鈍い音がして打球は高く打ち上がった。清田はマスクを投げて、球を追いかける。そして簡単にキャッチしてアウトを取った。  八良の異様な雰囲気の理由をすぐに理解したのは、馬橋のベンチでは金子と畠と監督だけだった。 「金谷(かなや)。」 「はい!」 「いつでも投げれるよぉ、準備しとけや。」 「……いや、でもまだ3回……。」 「ええから。しっかり肩作れ。」 「はい…。」  監督から指示された金谷は理解出来ないままブルペンへ入った。  その様子を四高の監督、スコアラーも見逃すはずがなかった。

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