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激闘の日【主将の回顧】
去年の夏、堀はベンチにすら入れなかった。
しかしこの時、チームの采配に疑問を抱いていた。
準決勝で県の強豪であった聖斎学園を破った翌日のことだった。
「おい!松田どこ行った!」
当時の3年生投手がそう怒鳴り散らしていた。堀を含めたベンチ外の部員は智裕を探すように命じられた。
こんな異様な光景を、当時の大人達は見て見ぬ振りをしていた。
ジリジリと灼ける炎天下の中、グラウンドや校舎周りを隈なく探し、堀は体育館の裏のジメジメとした場所で蹲 っている野球部員を見つけた。
声をかけようとしたが、堀はそれをやめてしまった。
「無理だって……無理だよ…俺が…エースなんて……無理だって……。」
啜 り泣いて、震えて、他人に見られないようにと隠れていたのはエースナンバーを背負わされた1年生だった。
「先輩ら…で、いいじゃん……俺ばっか……何でだよ……。」
堀はこの背中にのしかかる重圧が、自分では計ることは出来ないものだと理解した。
(俺たちが、こいつをこんなに追い詰めていたんだ……。)
「ダメだ……やらなきゃ……俺が、俺が…エースなんだ……エース、なんだ。」
天才なんてチヤホヤされていると叩かれて、それにも気がついても尚努力を怠っていないこと、それどころか他人の何百倍も努力しているを、堀は知っていた。
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