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激闘の日【4回裏】②

 カキンッ  小気味のいい金属バットの音がして、拓海は不安な顔をする。 『あっと打ち上げて、キャッチャー捕りに行く!どうだ?…捕ったー!2番佐々はキャッチャーフライで、馬橋学院1アウト。』 『今の清田選手の守備は素晴らしかったですね。』 「すげー!あのキャッチャー!カッケー!」 「きゃーう!」  茉莉と智裕はメガホンを叩きながら飛び跳ねて、茉莉はクルクル回り出した。 「思い出すわね…あの子がリトルリーグで初めて登板した日。」 「あー、あん時はヘボすぎたんだがな。まさか甲子園で投げるとは思わなかったなぁ。」 「キャッチャーは克樹(カツキ)くんだったわね。その克樹くんも、ベンチで甲子園にいる……あー何だか泣けてきちゃうわ。」  智裕の両親のそんな会話を聞きながら、拓海はテーブルの上で開かれたアルバムを見る。  智裕の小学校の卒業式の写真、そこにはまだ裕也や女子の高梨と同じくらいの背丈の智裕が笑っていた。  智裕と宮西のツーショット、それで見えたのは智裕の左手だった。 (この頃から、こんなにボロボロだったんだ……ずっとずっと、俺が想像出来ないくらいに努力してたんだ…。)  写真にそっと触れる拓海の指先は震えてしまった。

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