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激闘の日【6回表】④

『2番、ピチャー、松田くん。2番、ピッチャー、松田くん。背番号1。』  観客席にいる一起と裕紀でさえ震え上がるような、まさに戦場のダイヤモンドの中へ、平静なまま歩いて入っていく智裕は、もういつもの智裕ではなくなっていた。  かっとばせー! まっつっだ!  かっとばせー! まっつっだ!  増田はベンチ裏に待機していた。提げているショルダーバッグには様々な応急処置の道具や飲料水が入ってズッシリとしていた。  その中に入れていたメモ帳を必死に読んでいた。    そのメモを作ってくれたのは野村だった。  前日の最終ミーティング、最後まで残っていたのは増田と野村だった。 「俺はベンチから動くことが出来ない。看護師さんや医者もいるけど、増田さんもしっかりやってほしい。わからなくなったらこれを読んでね。」 「……怪我、だけじゃないんだ。」 「うん。1番怖いのは熱中症だし……あとは、過呼吸や心因的な嘔吐、かな。」 「過呼吸、嘔吐、なんて……。」 「今日の雰囲気見ても分かっただろうけど、選手へのプレッシャーは俺たちが想像出来ないくらいだよ。」 「そっか…。」 「特に投手陣はあのマウンドで孤独だ。いくら清田くんとのチームワークだとしても最後に投げるのは自分だから…もし打たれたら、もし反らせてしまったら、自分のせいでチームが負けたら、色んなプレッシャーを背負っている。だから心の不調が身体に影響することも考慮して冷静に動かなきゃダメだ。」 「……私、出来るかな…。」 「大丈夫、増田さんなら出来る。こんな短期間で仕事が出来ているんだから、俺が保証するよ。」  メモを渡す野村の手は優しく、力強かった。  だけど少しだけ震えていた。

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