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激闘の日【6回表】⑤
(野村くん……私なんかよりずっと不安なはずなのに……。)
ギュッとメモ帳を握った瞬間だった、グラウンドから異様な声が聞こえた。ベンチが騒がしくなった。
「葉山 先輩!アイシングスプレー!」
「おう!」
「行ってきます!」
野村の焦った声が聞こえて、増田はベンチを入り口から覗いた。すぐ近くにいた3年の田山に声をかける。
「田山先輩、どうしたんですか?」
「あ、増田。松田が足にデッドボール食らった。」
「え⁉︎大丈夫なんですか?」
「レガースしてたから大丈夫だと思うけど、野村と葉山が応急処置に行ってる。何しろあの松田のシュートだからな…。」
田山が心配そうにグラウンドに目を向けるので増田もつられて同じ方向を見るとマウンドが目に入る。
内野、キャッチャーだけでなく、伝令、そして恰幅の良い男性がゆるりと歩いて、マスクを被った審判もやってきていた。
「馬橋はピッチャー交代するみたいだな。」
「……え。」
「様子がおかしかったんだよな見てて。多分精神的、というか気持ちが崩れちまったんだろうな。ま、リードしている今のうちに引っ込めないとバカスカ打たれるかもしれねーし……増田?」
増田は先ほどの森監督の言葉を思い出した。
_馬橋の松田が崩れたら、ウチの松田も崩れる。
「松田くん…。」
増田は口をキュッと噛んで、泣くのをこらえた。
でも手足の微弱な震えは止められなかった。
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