540 / 1000
激闘の日【エース降板】②
畠を横目に智裕は1塁側コーチャーボックスに向かって歩いていたら、ベンチから野村と葉山が飛び出して智裕に駆け寄ってきた。
「松田!平気か?」
「はい、レガースのとこだったので。」
「松田くん、一応ソックスの上からアイシングするよ。レガース取って。」
野村がそう指示を出したが智裕は動かなかった。
「おい、松田、レガース!」
「……野村…葉山先輩……マウンド……は…。」
「どうなっていますか?」という質問は遮られた。答えたのは球場アナウンスだった。
『馬橋学院、選手の交代をお知らせ致します。
ピッチャー・松田くんに代わりまして、ピッチャー・金谷くん。』
(ハチローさんが……6回で……いなくなった……。)
野村はしゃがんで智裕の右足のレガースを外しアイシングスプレーを吹きかけながら、智裕の足に触れてコンディションを確認する。
「ダメだよ、松田くん。君は、君なんだから。」
そんな野村の声は、智裕の耳に届かなかった。
ともだちにシェアしよう!