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激闘の日【エース降板】②

 畠を横目に智裕は1塁側コーチャーボックスに向かって歩いていたら、ベンチから野村と葉山が飛び出して智裕に駆け寄ってきた。 「松田!平気か?」 「はい、レガースのとこだったので。」 「松田くん、一応ソックスの上からアイシングするよ。レガース取って。」  野村がそう指示を出したが智裕は動かなかった。 「おい、松田、レガース!」 「……野村…葉山先輩……マウンド……は…。」  「どうなっていますか?」という質問は遮られた。答えたのは球場アナウンスだった。 『馬橋学院、選手の交代をお知らせ致します。  ピッチャー・松田くんに代わりまして、ピッチャー・金谷くん。』 (ハチローさんが……6回で……いなくなった……。)  野村はしゃがんで智裕の右足のレガースを外しアイシングスプレーを吹きかけながら、智裕の足に触れてコンディションを確認する。 「ダメだよ、松田くん。君は、君なんだから。」  そんな野村の声は、智裕の耳に届かなかった。

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