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激闘の日【エース崩壊】①
馬橋のベンチ裏、マネージャー長の外薗 は共用トイレの個室で八良を介抱をしていた。
「うえぇぇぇぇ……ゲホッ、ガハッ!」
「あーあ…ハチロー、あんた飯食ってへんのか。」
「くえ、る…か……うぇ、ガハッ!……はあ……はぁ…。」
便器に頭を突っ込んでいる八良の背中をさすったり叩いたりする。かれこれもう10分以上嘔吐を繰り返していた。
だが、昼食も栄養補助ゼリーとスポーツドリンクだけだった八良からは苦い胃液しか出てこない。
「キョーカぁぁ……あかん…こんなん……エースや、ない…うっ!ぇぇぇ…。」
「はぁ?あんた何寝ぼけたこと言うとんの?」
「だって、完投…でけへん……ゆー、こと、きかれへん……畠、めっちゃおこ、て……かね、もこわ、く……うぅ……。」
「畠くんが怒るのも、試合で雅嗣 がおっかないんも、いつものことやろが。」
「う……うぅ…あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
八良は外薗に縋 り泣きじゃくった。外薗は受け止めて母親のように背中をポンポンと叩く。
「あんた目ぇ腫れるで。勝ったら校歌斉唱あるのに。」
「せやかて…俺が、俺があぁぁ!あぁぁぁぁぁ!」
「あーもー泣くなアホ!ったく…あんな1年ボーズ、単打で出しても牽制 するか畠くんが刺してアウトにするやろ。」
「出来へんかったぁ……三振せな……俺は…エース……やもん…グスッ。」
「わかった、分かったから。今日はもう、降りたんや…アンタはもう松田八良や……全部吐き出して…な?」
「キョーカ……うう……。」
肩を震わせて泣く筋肉質の男を外薗は精一杯の力で抱きしめて支えた。
「落ち着いたら医務室行くで。ちゃんと診てもらわんと、ホンマに洒落ならんことになるで。」
「うん……うう……キョーカ……俺、俺ぇ……。」
「うん、うん…大丈夫、カッコ良かったで、ハチロー。」
外薗は落ち着いた八良を支えながらトイレを出ると、待機していた看護師に手伝ってもらいながら医務室へ向かった。
その途中、八良は試合状況を人々の口やウグイス嬢のアナウンスで知ることになる。
「嘘やろ……トモちん………。」
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