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勝利チームの車内②
「はぁ……甘いモン食べたいわ……。」
窓に頭をもたれさせながら畠は魂が抜けたように呟いた。隣に座っていた金谷はスマホをいじりながら会話を始めた。
「今日夕飯のデザート、ケーキらしいで。」
「ホンマか。俺チョコケーキがええなぁ。」
「なんでや、ケーキゆーたらモンブランやろ。」
「はぁ?いぶし銀気取っとるつもりか。ケーキはチョコやろ。」
「俺、お前とはええバッテリーに慣れへん気がするわ。」
「奇遇やな、俺もや。」
2回戦の先発予定バッテリーには険悪な雰囲気が漂っていた。
1番後ろに座っている女子マネージャー5人衆も、のど飴を舐めたりジュースを飲んだりして応援の疲れをとっていた。
すると梨々子 のスマホが振動した。送信者は四高の女マネの増田だった。
メッセージを開くと画像が添付されていた。
「のぉ!こ、これはぁ…!」
梨々子は思わず悶えた。その画像は泣き腫らした清田が3年捕手の今中の肩にもたれて眠っている図だった。
「ルリちゃん…アカンて……ふおほ…あのスカしキャッチャーとのギャップが堪らんやろこれぇ…。」
_松田くんが吐きそうになったからサービスエリアの休憩中。清田くんがぁ…可愛いよ。
それ以外にもサービスエリアで休憩している四高野球部の写真が送られてきた。
1時間ほど前、甲子園の土を泣きながら、悔しがりながら集めていたメンバーは少しだけ笑顔が戻っていたようで梨々子も胸を撫で下ろした。
「ホンマ、殺し合いみたいな雰囲気やったからなぁ……良かった、けど…。」
梨々子のスマホの画面を覗いた外薗やその他の女子マネージャーたちも少しため息を吐いた。
10枚近い画像の中に、今自分たちのバスで騒いでいる馬橋のエースとぶつかり合った四高のエースの姿がなかった。
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