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ノムラくんの警告④
急に野村の声が冷酷になった。
『最後の挨拶なんかは普通にしてましたけど、あの後ロッカーで泣き崩れて、先輩たちが抱えてバスに乗せて、それでもずっと泣いてて、目ぇ腫れて憔悴仕切った…そんな顔ですよ。それに、左腕に力が入らないとかで…ストレッチの時も、馬橋のトレーナーさんや森監督が念入りにマッサージやケアをしてもダメで、さっき松田くんの家に電話かけたところなんですよ、明日病院に連れて行ってくださいって伝えるために。』
「病、院…。」
『松田くんの背負ってたものの大きさなんか俺たちには分かりませんよ。いくらチームプレイだなんだと俺たちが声をかけても、あのマウンドの上で松田くんは孤独だったんです。期待の倍の失望や絶望を覚悟する重圧を背負って、あんな殺し合いするような場所で戦って負けたんです。その気持ち、石蕗先生は理解出来ますか?』
理解できるかどうかと問われると、拓海は言葉を失った。
野村の声も更に厳しいものになって、拓海の心臓に痛く刺さる。
「で、も……声、聞きた……。」
『失礼ですけど、それは先生のわがままですよね?』
そう指摘されて否定が出来なかった。
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