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激闘後の晩餐⑦
「俺は、松田智裕に憧れて四高に入ったんです。初めて家族に反抗してまで入ったんです。それなのに……。」
「あー…まっつんってアホっぽいけど基本ネガティブな思考やからなー。天才やのに自信が無くて、他人の10倍練習する、それで自分を追いこむ…中学の時から変わっとらんのやな。」
「あまりに泣くから、俺が『先輩はしっかり投げてました。俺たちが馬橋を攻略出来なかった結果です。』って……これは慰めでもなんでもない、事実を言ったんです。そしたら…。」
_俺が…もっとしっかりしていれば……負けにつながることもなかった。俺がしっかりしてれば、清田も無茶しなかった……俺の弱さが、全部悪いんだ。
_お前なんでこんな俺に憧れるの?やめた方がいいよ……こんなに弱い先輩で、がっかりしたろ?
_お前さ、聖斎 、戻った方がいいよ。
「なんて言われたから……カッとなって怒鳴って胸ぐら掴んで突き飛ばしてしまいました。ちょうど夕食の時間になったので俺はそのまま出て行きましたけど。」
直倫はひとしきり説明をすると烏龍茶を飲んだ。
中川は大人しそうな印象の直倫が一気に怖くなった。
顔を青くしてオレンジジュースを飲むと、「あー。」と間延びな声を出して話を切り出す。
「今日な……ウチのエース様も6回で崩れてもぉたやろ。あのキッカケは、君なんやで。」
「……でも俺は、ヒット、四球、内野フライでしたけど。」
「アイツは馬橋のレギュラーになってから同じ打者に2回出塁を許したことがないんや。どんな形であれ、君は2打席連続で出塁をした。それでアイツの自信にヒビが入ったんや。」
「……俺が、松田八良さんの…。」
「せやから、君はもっと上を目指せると思う。」
「上、ですか?」
「まだ1年生なら間に合うと思う。君は、君の将来の為には、聖斎学園に戻った方がええ。」
(1番プロに近い高校生にまで、言われてしまった。聖斎に戻れって……でも、そしたら……。)
直倫の頭に浮かんだのは、裕也 の顔だった。
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