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ホシノの過去②

「あれ?星野やん!」  ビールとサイダーを運んできたハチマキを巻いた店員が驚いたように裕紀に声をかけてきた。その人物を見た裕紀は目を丸くした。 「柴原(しばはら)、何してんの?」 「それはこっちのセリフや!こっちおるなら連絡せぇよ。」 「いや、だって1泊しかしねーし。今日だってさっきまで西宮にいたし。」 「もしかして甲子園か!お前野球好きやったん?」 「ちげーよ。第四高校の松田智裕が俺のクラスの生徒だから観に行ったんだよ。」 「……えええええええ!」  柴原と呼ばれた店員は「松田智裕」という名前を聞いただけで驚いた。  そしてその会話が聞こえていた隣のサラリーマンたちも裕紀に絡み出す。 「にーちゃん!先生なんか?」 「あの東の松田の担任ってホンマか!」 「ワシ今日の試合めっちゃ痺れたわぁ!あれは将来が楽しみやで!」  あまりの熱にさすがの裕紀も気圧されて困惑する。もちろん一起は呆然とする。 「なぁなぁ、星野。あとで住所教えるから、“東の松田”のサイン(もろ)おとってくれへん?」  柴原はいつの間にか持ってきたサイン色紙を裕紀に渡してきた。 「えー、めんどくせーよ。」 「ええやんかー。生1杯サービスするし。」 「よし、おかわり。」 「はい、おおきにー!」  これまたいつの間にか飲み干していた生ビールの入ってた空ジョッキを柴原は受け取ると厨房の方に戻って行った。

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