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ホシノの過去⑤
あまりに流暢に、あっさりとした口調で話される過去に一起はグラスを置いて呆然としてしまう。
「萌香は家庭の事情が複雑でな、それと将来への不安とか色々重なって追い詰められてたっぽくて…なのに死んだ日、補講で学校来てた俺に勉強教えてたんだぜ。笑顔で、いつもみたいに。そんな奴が数時間後に死ぬって誰が思う?」
裕紀の悲しそうな笑顔が、一起の胸に痛く刺さった。
「夕方になって帰ろうとしたら萌香が屋上にいるを見つけて俺は無我夢中で走ったよ。既に柵の向こう側にいた。」
(まだ、生々しく、昨日のように覚えているよ。)
_裕紀、ありがとう。
_ちゃんと勉強するんだよ。
「俺が手を伸ばしたが間に合わなかった。まるで夕陽に吸い込まれるように萌香はそこから消えた。」
「………もう、十分です。」
「……一起は優しいな。」
裕紀が長い手を伸ばして俯く一起の頭をわしゃわしゃと撫でると、冷たい触感に一起は涙が出てきた。
「お前今日泣きすぎだって。」
「……ごめ……な、さ……。」
「…………俺の代わりに泣いてくれてんのか?」
「ちが……う………ちが、く……て………。」
(どうしよう…言えない……先生の心の隅に、そのモエカさんが生きてることが……仕方ないことだって理解しているのに……嫉妬してるなんて言えない…。)
「やさ、し……く、なんか……ない……。」
一起は手の甲で何度も何度も涙を拭い、だけど涙は止まらない。
「ああ、明日は目の周り腫れるな。」なんて考えもよぎった。
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