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屈辱のエース①

 賑やかな食堂を後にした八良と中川は寄り道もせずに自室に戻った。  中川がベッドに腰掛けてため息をつくと、ガチャ、と音がした。 「ん?なんや、鍵かけてくれたんか。」  いつもなら施錠するのは中川なのだが、今日は八良がかけたらしい。八良はドアの前から3歩だけ進むと、俯いて膝から崩れた。 「シュン…ちゃん……布団……。」  この光景は4ヶ月前に負けた時と同じだった。中川は自分のタオルケットを手に取るとそれを八良に被せた。そして八良は包まって、泣いた。  中川はそんな小さな身体をしっかり抱きしめた。 「これならもっと声篭るから、もっと泣け。」 「ああああぁぁぁぁぁ!うあぁぁぁぁぁ!シュンちゃんごめんなさいぃぃぃぃ!あぁぁぁぁぁ!」 「謝るな。勝ったんや、次や次。」 「俺、エース…なんに、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」  中川の大きな手に重圧がズッシリと乗った気がした。  筋肉があるとは言え、元々が華奢な身体は潰れそうなくらいの重圧を背負って地に足をつけていた。 (さっきは(わろ)とったけど、今頃まっつんも……ホンマ、俺なら耐えられへんわ……“天才”、“エース”、“日の丸”、“最強”……“期待”と“失望”、全部を背負ってよぉ立ってられるな…こんなちっこい奴らが……。)

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