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屈辱のエース②

「ハチロー。」  中川がぶっきらぼうに名前を呼ぶと、八良は顔をあげた。そして中川と目が合うと、中川の方から八良にキスをした。  触れるだけのキスだった。 「シュン、ちゃ……。」 「……泣けとは言うたが、泣きすぎじゃボケ。」 「なんで…?なんでチューしたん?」 「………さぁ?」  中川は片手で真っ赤になった顔を押さえながら、八良から顔を逸らした。  しかし八良は中川の首に両腕を回して顔を近づける。 「なぁ、もっかい…チューして?」 「……次は完投完封するんやったらしたる。」 「…今日はやらかしてもぉたけど……俺を誰や思おとんの?」  まだ涙が残っているが、八良は不敵な笑みを浮かべた。 「この国のエースやで。」  やっといつもの自信を取り戻した八良の表情。  中川は安心したように顔を綻ばせると、八良の頬に手を添えて、八良が求めるままにキスをした。

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