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屈辱のエース③

 八良の悔しさを、実際に受け止めた畠は八良の叫びを寮の外から聞いていた。 (アカン…どないしよ……もうすぐ消灯時間なんに……戻らなあかんのに…こんな顔じゃ戻れへん。)  畠の表情は自分を責めている、苦しくて悲しい気持ちが(あらわ)になっていた。それを表情筋で自覚しているからこそ部屋に戻れなかった。 「……晃?」  ザッザッと引きずるような足音と共に名前を呼ばれた畠は顔を上げた。そこにいたのは右だけ松葉杖をついた四高の清田だった。 「キョースケ……何してんねん、もう消灯時間…。」 「いや、水貰いに来ただけ。片足こんなんだから結構ギリギリ。」  清田は左手に持っていた空のペットボトルを畠に見せながら自分が来た理由を教えた。 「あ、俺が入れてくるから…此処で待っとってや。」  畠は清田に駆け寄って空のペットボトルを奪う。その時に清田と手が触れると、畠の心臓が跳ねて、ポロリと涙が落ちた。 「晃?」 「あ……えっと……そこ、階段トコ座っとき。な?」  手首で涙を拭うと、ダッシュで食堂へ駆けて行った。  とりあえず清田は言われたように入り口の段差に腰を落ち着けて待つことにした。 (これ、ホンマにあかんやつ……何でや…キョースケなら解ってくれそうとか……ちゃう!キョースケの方が悔しいんや!俺が泣いたらあかん!)

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