601 / 1000
屈辱のエース④
食堂で水を汲み終えると、急いで畠は清田の元に戻った。
「キョースケ、はい。」
満杯になったペットボトルを清田に渡すと、清田は畠に「ありがとう。」と少しだけ微笑んでお礼を言った。
「キョースケ……足、ホンマに平気なんか?」
「ん?特段折れたような腫れはないから筋の損傷か捻挫だろうって…明日帰ったらすぐに松田と一緒に病院だけど。」
「そう、か……。」
「慣れねーことするもんじゃねーな、ヘッスラなんか練習でもやんねーっつの。」
そう自嘲する清田が、苦しそうに見えて畠は思わず清田の右腕に縋りついた。
「キョースケ……ごめん。」
「……何が?」
「さっき……。」
「……それなら、今もだろ。」
清田は「ふぅ」とため息を吐くと、縋られている反対の左手で畠の輪郭を撫でた。
「馬橋は優勝すんだろ。なら扇の要は毅然としてろ。」
「うぅ……せやけど……俺、ハチローさん……エースをちゃんと……リード出来ひんかった…。」
「してたよ。言ったろ、俺は晃に敵わないって思った。俺は負かされた相手の泣き言なんて聞きたくねーよ。」
「ハチローさん、泣いとった……エースのプライド、ずったずたやし……堀さんとか…あの、赤松とか……もっともっと、俺が研究して配球考えて、俺がリードしとけば打ち取れて…完投したかもしれへんのに……。」
「晃、それは俺も同じだ。」
「へ……。」
清田の弱音に、畠は思わず顔を上げた。清田は左手を見つめていた。
ともだちにシェアしよう!