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屈辱のエース④

 食堂で水を汲み終えると、急いで畠は清田の元に戻った。 「キョースケ、はい。」  満杯になったペットボトルを清田に渡すと、清田は畠に「ありがとう。」と少しだけ微笑んでお礼を言った。 「キョースケ……足、ホンマに平気なんか?」 「ん?特段折れたような腫れはないから筋の損傷か捻挫だろうって…明日帰ったらすぐに松田と一緒に病院だけど。」 「そう、か……。」 「慣れねーことするもんじゃねーな、ヘッスラなんか練習でもやんねーっつの。」  そう自嘲する清田が、苦しそうに見えて畠は思わず清田の右腕に縋りついた。 「キョースケ……ごめん。」 「……何が?」 「さっき……。」 「……それなら、今もだろ。」  清田は「ふぅ」とため息を吐くと、縋られている反対の左手で畠の輪郭を撫でた。 「馬橋は優勝すんだろ。なら扇の要は毅然としてろ。」 「うぅ……せやけど……俺、ハチローさん……エースをちゃんと……リード出来ひんかった…。」 「してたよ。言ったろ、俺は晃に敵わないって思った。俺は負かされた相手の泣き言なんて聞きたくねーよ。」 「ハチローさん、泣いとった……エースのプライド、ずったずたやし……堀さんとか…あの、赤松とか……もっともっと、俺が研究して配球考えて、俺がリードしとけば打ち取れて…完投したかもしれへんのに……。」 「晃、それは俺も同じだ。」 「へ……。」  清田の弱音に、畠は思わず顔を上げた。清田は左手を見つめていた。

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