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屈辱のエース⑧

 ガチャッ パチッ 「松田ぁ、赤松、お前らまた喧……か…。」  隣の部屋の桑原が苦情を言いに寝ぼけ(まなこ)で部屋に入ってきた。  そして照明をつけると、完全にそういう態勢になっている智裕と直倫が目に入り、桑原は数秒固まった。 「あ…れ……お前らって……。」  どかない直倫を揺すって、智裕は青い顔をしながら起き上がる。 「桑原先輩!ち、違うんです!こ、これは!ちょっと喧嘩して!その!」 「松田また泣いてんのか⁉︎え、違う意味で泣かされたのか⁉︎」 「違います!絶対違います!これはただの友情!そうです!友情です!素敵でしょ⁉︎先輩後輩の!おい赤松!いい加減離れろ!」  智裕は右手にしか力が入らず、どうにも直倫を動かすことができない。 「あかま……。」  直倫は泣き疲れて眠っていた。 「赤ちゃんか!つーかどけよ赤松!どいてから寝ろよ!」 「……松田。」 「ちょっと桑原先輩も手伝ってくださいよ!」 「俺、そういうのに偏見ないから。大丈夫だから……あ、乳繰り合う場所は考えろよ?ここ壁薄いんだから、な?お、おやすみー。」  桑原はそっとドアを閉めた。  そして数秒後、薄い壁の向こうから「おい!松田と赤松デキてたぞ!」と騒ぐ声がした。 「だーかーらー!違いますってばあぁあああ!」

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