621 / 1000

おかえり、マツダくん②

 拓海は机でうつ伏せになって動けないでいた。涙は出ないが、気力が出てこない。 (だめだ…勤務中なのに……こんなんじゃ…。)  するとドアから、コンコン、とノックの音がした。  拓海は急いで顔を上げて、少し乱れた白衣を整えて「どうぞ。」と声を出した。 「石蕗先生……大丈夫ですか?」 「増田さん…。」  そっと入ってそっとドアを閉めた増田は拓海に促されて丸椅子に座った。 「……先生、目がすごく真っ赤…。」 「あ……うん、ちょっと、ね……。」 「みんなから聞いたんだけど、昨日松田くんが倒れたところがテレビに映ってたんですね。」  増田が俯き気味にそう言うと、拓海はまたあの場面を思い出してしまいゾクッと震えた。 「身体は軽い熱中症、でも過度のストレスの影響で嘔吐と過呼吸を起こしちゃって……それは昨日のうちに治ったんですけど。」 「そっか……増田さんが見てくれたの?」 「運んだのは運営の大人の人とか他の部員の1年生で、私は野村くんや看護師さんの言う通りに動いただけ……何も出来ませんでした。」 「そんなことはないよ。俺なんかより、増田さんの方が支えに……。」 _まっつんをあんたが支えられるとは思えないね。 _今の貴方に出来る事なんて何もありませんから。  否定された言葉が拓海の頭で再生される。

ともだちにシェアしよう!