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ナインの凱旋②

「桑原先輩!俺モテ期来ました!」  智裕は桑原の隣に座るとキラキラした目でそう報告する。  イラッとした桑原は智裕の唯一動く右腕を取り、雑巾絞りをする。 「いだだだだだだだ!ギブギブ!ごめんなさい調子乗りました!」 「年上女教師と付き合ってるくせにさらにモテたいかこのシケメン!」 「モテたいけど間に合ってるのでごめんなさい!……あ、気持ちいい。」 「そーか、じゃあもっと絞ってやるよこのドM!」  ギリギリとさらに絞られてやっと解放される右腕は真っ赤になった。  智裕はフーフーと冷ますように右腕を労わりながら、窓の外を眺めた。 「……あのアイドルみたいなウチワありますよね。」 「おお、俺にはねーぞ。」 「9割9分が赤松っすね…。」 「だろーな。」 「直能(ナオタカ)さんの時もありましたよね、県大会の決勝で。」 「おそるべし、赤松ブラザーズ。そして羨ましい。」  その当人はというと、智裕たちから少し後ろの通路側の席に座って肘掛に肘をついて顔を支えている。  その姿はさながら芸能人のように美しく、キラキラとしていた。 「……桑原先輩。」 「あ?」 「赤松ってあんなカッコよかった?」 「何?やっぱ抱かれたか?」 「ちょっと…Sっぽい。」 「ははは、死ねドM。」  桑原に後頭部を小突かれると、1番前に座った森監督が全員に声をかける。 「このまま学校に向かう。降りる時は一人一人礼儀正しくするように。」  はい! 「それと清田と松田は市立病院に着けてもらうからそこで降りるように。親御さんが待っている。そのまましっかり診てもらえ。特に松田、お前は近々で国際大会が控えてるからしっかり治せ。」  智裕と清田はふて腐れたように「はい。」と返事した。

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