634 / 1000

ただいま、ツワブキさん④

 愛しい人が振り向く間もなく、智裕はその後ろ姿を力一杯抱き締めた。  先ほどまで全く力が入らなかった左手に、感覚が戻って、抱き締めた感触を智裕は認知する。 (嘘だろ……!さっきまで…全く動かなかったのに……。)  「どうしたの?」「大丈夫?」「ごめんなさい。」、色々と拓海かける言葉を考えていた。  だけど、智裕が選んだ言葉は。 「拓海さん、ただいま。」  智裕が息を整えてから言葉をかけると、涙を流していた拓海が振り向いてきた。  それを拭いたい智裕は、そっと拓海の唇に触れた。 「おかえり、智裕くん。」

ともだちにシェアしよう!