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ただいま、ツワブキさん⑤

 安心したような顔をした拓海が愛おしく、智裕はすぐに手を引いて、ベッドの仕切りのカーテンを閉めた。  密室が完成した刹那、2人は時間を、淋しさを埋めるように深いキスを交わす。 「あ……ともひ、ろ…く……ん、ふぁ…ん。」 「んぅ…拓海……ごめん…んんっ。」  キスをしながら、智裕は謝った。拓海の輪郭や首筋を左手で確かめる。 「動いた………。」 「え……どうした、の?」 「左手……昨日から……力、入らなくて……でも、拓海を触れてる……。」  智裕はトンッと拓海を寝かすと、ワイシャツを忙しく脱いで、左腕に着けられたサポーターやテーピングを全て外した。  露わになった智裕の左の掌や指先は、県大会決勝の日と比べ物にならないくらいボロボロだった。まだ微弱だが指先が震えている。 (……こんなに……こんなになるまで………。)  拓海は両手で智裕の左手を取った。 「痛かった…よね?」 「……ううん、平気。」 「嘘つかないで……俺は……俺は…。」  それから右手を智裕の左手に指を絡ませて、優しく握って智裕の指先を唇に持っていって口付けて。 「どんな智裕くんも、大好きだよ……どんな智裕くんでも知りたいし、受け止めたい……俺じゃ、頼りないかもしれないけど、智裕くんの痛いのとか、悲しいのとか、苦しいことも…全部一緒に向き合って……一緒に乗り越えていきたいんだ………だから、もう、置いていかないで……。」  もう一度、口付けて、一度目を閉じて、目を開けて、智裕を見つめると、智裕の目からは涙がボロボロと溢れていた。 「ご、め……ほんと……ごめん………いた、かった……怖くて…1人で……ずっと、ずっと……。」 _あのマウンドの上で松田くんは孤独だったんです。 _期待の倍の失望や絶望を覚悟する重圧を背負って。 (野村くんの言葉は本当だったんだ……『1人じゃない』って慰めは通用しないんだ……。) 「ここに、俺が……いるから………帰ってきたら……俺が、いるから……ね?」

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