643 / 1000

四高野球部の帰還③

「入ってもいいぞ。」  騒ぎに加担していない堀が答えると増田が部室に入る。 「野村くん。」  増田は一直線に野村に近づいた。マネージャーとして当然なのだが周りはニヤニヤとマネージャーの2人を見る。  その視線に気付いた野村は増田の手を取った。 「増田さん、ちょっと校舎に行こう。」 「え?野村くん?スコアの整理するんじゃないの?」 「こんなむさ苦しいところじゃ落ち着いて話が出来ないからね。」  増田に気づかれないように部員たちに睨みをきかせながら、2人は部室をあとにした。  野村が向かったのは校舎とは反対の投球練習スペースだった。 「野村くん?どうしたの?」 「……いや、あそこじゃ…石蕗先生のこと話せないからさ…。」 「あ、そっか……ごめん、気が利かなくて。」 「いいよ。先生大丈夫だった?」 「あの……野村くん、手…。」  増田はいつまでも離してもらえない手に少し恥ずかしくなって指摘した。すると野村は「うわぁ!」と叫んで咄嗟に手を離した。 「ご、ごめん!嫌だったよね!」 「そんなことないよ……ちょっと恥ずかしかった、けど。」  増田は掴まれた手首をもう片方の手で握りしめた。  その仕草に野村は心臓が跳ねて、増田に1、2歩と近づいて、遠慮がちに抱き締めた。 「ごめん……ちょっと……こうさせて…。」  野村がそう呟くと、増田の体温は上昇した。  心臓が痛くなったが、「いいよ。」と小声で答えて、おずおずと手を野村の背に回した。 「…増田さんがいてくれて…よかった……ありがとう…。」 「わ、私は…野村くんが…いてくれたから……。」 「つらくなかった?」 「ううん……みんなと一緒で、よかった…。」 「そっか……本当に……ありがとう…。」  野村は、抱き締めていた腕に少しだけ力を入れた。 (……な、何これ…私、どうしよう……野村くん……。)

ともだちにシェアしよう!