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アカマツくんの悔恨②

 直倫がゆっくりと顔を上げると、声の主はTシャツとハーフパンツ、スニーカーと私服姿で、完全に休日モードの格好で髪はセットしておらず、川風にサラサラと明るい茶髪が(なび)いていた。 「裕也、さん……どうして。」 「は?いちゃ悪ぃかよ。」 「いえ…そうじゃなくて……。」 「くっそ熱ぃんだよ。さっさと部屋入れて茶でも出せよ。」  裕也は暑さでイラついたように言うと、直倫の背後に回り直倫の(でん)部を軽く蹴ってオートロックを解錠するように促す。  直倫の部屋に向かうまで2人は一言も言葉を交わさなかった。  ギィ、と重い扉を直倫が開ける。 「どうぞ。」 「おっじゃましまーす。」  まだ2回目の訪問だと言うのに、裕也はとても慣れているように直倫の根城へ入っていく。  直倫より先に奥へ奥へ進む裕也は照明のスイッチを点けた。 「……なんかすげー久しぶりな感じだな。何日くらい大阪だったんだ?」 「4泊ほどでしょうか。」 「へー、楽しかったか?」 「……まぁ、最初と最後は、ワイワイとしてました。」 「なんかお前が大阪ってミスマッチすぎて想像つかねーな。」  裕也は「くくく」と笑って直倫を見た。直倫はそんな裕也の顔を見て、安堵はするものの苦く笑ってしまった。  表情筋でそれが分かった直倫は、フイッと裕也から顔を逸らした。 「裕也さん、何か飲みますか?と言ってもスポーツドリンクか炭酸水しかありませんけど。」  そう言って台所に向かい、裕也に完全に背を向けた。

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