646 / 1000
アカマツくんの悔恨③
「そんな顔すんなよ……バッカじゃねーの!」
ボスンッ、と背中に温もりがぶつかってきた。直倫は振り返ることが出来ない。
「裕也さん…何…を……。」
「カッコつけんじゃねーよバーカ!バカだろバカ倫!」
少しだけ筋肉質な細い腕が直倫の胴をギュッと締め付ける。
声も震えて、直倫のワイシャツがジワリと濡れた。
「頭ではさぁ…甲子園まで、いけんの…だけですげーのわかってんだよ……だけど…お前らが負けんの…やっぱ悔しいよ俺…!」
(裕也さんが…泣いている……。)
「トモが負けんの…俺、初めて見たし……だけどさぁ…なんか、しんねぇけど……お前が、泣きそうなのに泣いてなくて……それが苦しかった…。」
(いつも太陽みたいに笑ったり、可愛く怒ったりする裕也さんが…泣いてる…。)
「お前が泣けないならさ、俺が泣いてやるから……だから我慢してんじゃねーよバカ倫!」
(裕也さんが……俺の、代わりに…これは夢じゃない?俺のために…なんて自惚れて、いいのだろうか?)
「うう……ぐぅ……もっと、上、にぃ…いって…欲しかった……お前ら、は……もっと、もっともっと!いけるはずなんだよ!」
直倫の厚い殻が、一気に砕けた。本音が、悔しさが、怒りが、喉から、瞳から。
その場で膝が崩れた直倫と一緒に、裕也もしゃがんだ。
ともだちにシェアしよう!