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タカナシさんの積年③

(ああ……普通だ……もし私がツワブキちゃんだったら、もっと速くて大きい音なんだろうな……解ってたのに、つらいなぁ…。) 「智裕……好き……だよ……。」 (ごめんね、ツワブキちゃん……ごめんね…。)  高梨は罪悪感から震え始めた。智裕は気づいて、手を離すと、両手で力強く高梨を抱きしめた。 「ありがと……優里(ユリ)……。」 「ごめ……ごめん……ね……ごめん……智裕ぉ……。」  高梨は堪えていた7年分の想いを、涙にして流した。  智裕はその重さをしっかりと受け止めた。 「お前ならもっといい男見つかるって。」 「うぅ……そうよぉ……もっと、ゆ、りょー物件、見つけ、る…っ。」 「つーか優里の彼氏とかマジ悲惨だな、おっぱい無いし。」 「ほん、と…あとで、ぶっ殺す……う。」 「口悪いし、うるせーし、ホモ好きだし、オタクだし、多分Sだし。」 「うるさいうるさいうるさいぃ……!」  日が暮れて、お洒落な街が煌めきだして、智裕は一言呟いて。 「優里……悪かったな……。」  高梨から体を離すと、手を引いて歩き出した。今度はちゃんと高梨も歩いた。  少し前を歩く智裕は、上を向いた。涙が一筋、頬を伝った。 (…昔好きだったのにさ、全く心動かねぇんだな……本当に、ごめんな、優里。)  智裕の心は今の恋人に100%を占められいことに気付いてしまった。  それが同時に不安を掻き立てていたのだが、それを奥底に仕舞って見ないようにする。 「なぁ、優里……。」 「何よ…。」 「めっちゃ星あるぞ。」 「……バーカ。」

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