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タカナシさんの積年④

 直倫の手を引いて、裕也もイタリア通りに入っていた。 「何でイタリア通りなんだよ、こんなカップルだらけの…。」 「俺たちもカップルですよね。」 「ちょっと黙……直倫っ。」  裕也は強く直倫の腕を引っ張り、物陰に隠れた。 「どうしたんですか?」 「あれ…高梨とトモだ。」  雑踏で2人の声は聞こえないが、智裕が高梨を抱き寄せて慰めているのが分かる。直倫はその光景に少々驚いた。 「高梨先輩と松田先輩……なんで?」 「あー…言っちゃったなぁアレ。」  裕也は「はぁ…」と頭を抱えた。 「高梨…昔からトモのこと異性として好きだったんだよ。なのにあのクソ鈍チンは高梨に恋愛感情ゼロで、彼女作ってはフラれ…で今度はツワブキちゃんに本気だし……。」 「松田先輩が酷い人にしか見えなくなったんですが。」 「それは当たってるぞ。俺はてっきり両想いだとばかり思っててさ……。」 (なんだかんだで、結局あの2人はくっ付くと思ってたんだけど…。) 「寂しいですか?」 「……まぁ…ちょっと。」  直倫に図星を突かれ、裕也は否定せずに自嘲して認めた。  その笑い顔が苦しくて、直倫は後ろからそっと裕也を抱きしめた。 「大丈夫です……2人とも強い先輩ですから…。」 「そうだな……。」 「それに裕也さんには俺がいます。寂しい想いさせません。」 「それ今の流れで関係あるか?つーか離れろ、一起たちと合流するぞ。」 「嫌です。」 「は?」  今度は直倫が裕也の腕を取った。そして駅の方に戻っていく。 「直倫?ス●バそっちじゃねーぞ!」 「明日からしばらく俺ら会えないんですよ?充電させてください。」 「あ、お前明日から実家か。じゃなくて!なにすんの⁉︎」 「俺の家で、裕也さんを充電させてください。頑張って家までは我慢しますから。」 「いやいやいやいや!おま、マジでなにすんだよ!俺明日ねーちゃんの買い物のパシリ頼まれてんだけど!」 「すいません、もう聞けません。裕也さん、愛してあげます。」  裕也は顔を青くして改札をくぐった。 「無理だってばーーーーー!」

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