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花火大会の日⑤

 花火の打ち上げまであと数分となった。里崎の家の屋上に出ると、空がよく見えた。 「すごい…特等席だね。」 「俺ら毎年ここで見てんだよね。」  智裕はナチュラルに拓海の肩を抱いて寄り添っていた。茉莉は宮西の肩車に乗ってはしゃいでいた。 「おーおーお熱いことでー。」 「あちゅー!」 「茉莉、俺ハゲる。」  少しだけ(はや)し立てられて拓海は恥ずかしくて俯いた。 「うるせー、ラブラブだからいいんだよ。」 「惚気(のろけ)んなハゲ。」 「ハゲじゃねーし!もう伸びてきたし!」  そう言う智裕の頭を拓海は見上げて確認した。 「智裕くん、結構伸びてきたけどいいの?」 「うん、まぁ前よりは短くしなきゃいけないんだけど。あと染めるの禁止。」  智裕の髪型はもうすぐベリーショートになるかというくらいまでに伸びていた。 「でもバリカンしたのほっしゃんでしょ?」 「あー…生徒指導室でこう……ガガガって。」 「休みの間に美容院行った方がいいよ。U-18の公式ホームページに乗せる写真撮影もあるだから、それなりに綺麗にしておかないと。」 「そーそー、ハチローさんっていうイケメンもいるんだから負けちゃだめだよ。」 「うーん琉璃ちゃん、写真は帽子かぶっちゃうから髪の毛はあんまり関係ないかもね。」  野村のトドメが刺さった智裕は「ひどい!」と言いながら拓海を抱きしめた。 「ねー拓海さん……黒髪短髪でも、俺のこと好きでいてくれる?」  甘えたような声で覗き込まれた拓海はますます顔が赤くなった。  智裕はその表情にドクンと胸が鳴った。 「俺は……どんな智裕くんでも……す、き…だよ?」 「はぁ…やっぱ天使、大好き。」

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