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アカマツくんの挫折①
直倫は小田原の実家で朝を迎えた。目が覚めたのはドアのノック音だった。
「直倫さん、朝ごはん出来ましたよ。」
「……はい。」
優しく透き通った母の声に応えて、直倫は重い体を起こした。目を触ると少し腫れていることがわかる。
洗面所に行き、顔を洗い、顔を上げて自分の顔を見た。
「……はは…泣いてたのか。」
タオルで顔を拭い、情けない表情で食卓に向かった。
広いダイニングテーブルには、母が作った温かなご飯が並べられている。
そして先に食べていた兄の直能 の隣に座ると、母が野菜ジュースを注いだグラスを直倫に出してくれた。
「直倫さん、明日帰るのよね?」
「はい、明後日から練習が再開する…ので……。」
「あまり無理はしないで…昨日のこともあるんだから。」
「大丈夫です。学校のみんなには黙っていたので。」
「直倫、松田くんにも黙っていたのかい?」
牛乳を飲みながら、直能が訊 ねた。
「はい……受かったら、お願いします、って言おうと思ってたので……すいません、兄さんに付き添いまでして貰ったのに。」
「まだ直倫は1年生なんだからこれからさ。挑戦したことに意義がある。」
「……すいま…せん。」
直能の励ましに直倫はまた俯いた。すると母が後ろに立って直倫の背中をさすった。
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