708 / 1000
アカマツ兄弟と海の景色②
「松田先輩は他の先輩に教えて貰うまで、県下でこんなに有名な兄さんのことを知りませんでした。」
「うん。」
「それに聖斎のことも、あー去年当たったところかー、くらいの認識でした。」
「そっか…松田くんにも推薦の話があったはずなんだけどね。」
「それほど…あの人はもっと上しか見ていない、そんな情報が入らない程の…厳しい練習を自ら課しています。だから……その、兄さんが決して努力してない訳ではないのですが…おそらく想像を絶する努力をあの人は…。」
「そうか……成る程、敵わないわけだな。」
直能は感心したように微笑んで、諦めたような声を出した。
「あの敗戦を何度も見返した、そして馬橋対四高の試合も何度も見たよ。歯痒くもあり…どうして僕は負けたのだろうと、何度も何度も疑問に思った。」
「兄さん……。」
「でも、そうだね…今の直倫の話では合点がいったよ。松田くんの努力、僕も今後は見習わないとな。」
(兄さん……ごめんなさい。兄さんも充分凄いですけど…あの人の掌 は……。)
_……あ、か……ま…つ……。
(見えてしまった左手、震えて、荒れて、初めて見たくらい酷くボロボロで…俺はあれを一生忘れることは出来ないだろう。)
「兄さんの手は、キレイです。」
今の直能にとってこれは褒め言葉ではなかった。
直倫の両腕、両足、首回りに日焼け止めクリームを塗り終えると、直能は切ない笑顔を向けて直倫の頭をクシャッと撫でた。
ともだちにシェアしよう!