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アカマツ兄弟と海の景色④

「…え。」  中条大学とは、大学野球の名門で野球部の厳しさはプロ以上とも()われている。  日本で1番プロを輩出しているだけあって、スカウトで入学した部員も年に数度のセレクションで掛けられる。現在県内ナンバー1の実力と(うた)われている直能も生き残れるかどうか、正直難しい環境である。 「そこが僕のラストチャンスだ。」 「そんな…兄さんならもうドラフトの調査書だって来ているはずです!なのにどうして…。」 「今決めたって言っただろ。直倫!」  穏やかな顔でまた直能は直倫にボールを投げた。直倫はすぐに返球すると、直能は一呼吸おいた。 「直倫、少し構えてくれ。」  それは、直能が本意気で投げる合図だった。直倫はグラブと身体を構えてゴクリと喉を鳴らした。  右足を一歩下げて、グラブを口元まで上げて、左足をあげて身体を右に向けて、オーバースローで球が放たれた。  ズドンッ  キャッチャーミットではなく普通のグラブで捕球した直倫は全身がビリビリと痺れた。  その球は県大会決勝戦で直倫がホームランにした綺麗なコースの豪速球と同じもの。 「僕は、この自信を確信に変えたいんだ。それが出来なければ、この道を諦める。」  直能の決意の言葉は直倫に酷く衝撃を与えた。  20m程離れた場所にいる直能のオーラは鬼気迫るモノがあり、直倫は膝が震えそうになった。 「直倫、君も本気になってくれないか?」 「どういうこと、ですか?」  たらりと汗を一つかいて、受けた球を直能に返した。  パシッ 「直倫!君は聖斎学園に戻るべきだ!」

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