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マツダくんのデブエット作戦⑩

「これから先に進んでいいかどうかって、迷うわよね。」 「はい……多分、今度の世界選手権でそれが見つかる気がするんです。」 「技術とか才能だけじゃこの先はやっていけないって、解ってるのね。」  和佐の言葉に智裕は確実に頷いた。  その智裕の顔を見た水上は、なんとも腑に落ちない気持ちになる。 「俺はまっつんにプロになってほしいけどな。」 「蓮、あんたは人の心配より自分のことを考えなさい。」 「へいへい。」 「水上、悪いな、お前すげー大変なのに。」 「そうよ、日本代表の強化指定選手なんだから、そろそろ腹をくくりなさい。」  智裕は水上の不貞腐れた様子に違和感を覚えて、和佐に「どういうことですか?」と質問すると、水上が答えた。 「俺、12月から海外行くこと決まったんだよね。学校も通信制の高校に転校することになった。」  急に水上が遠くの存在に感じた。水上は淡々としていたので、どこか寂しさがチクリと智裕の心に刺さる。 (マジかよ……水上って、そんなスゲー奴なのに、俺なんかと……。)  またマイナス思考に陥りそうになったが、それはあの時の赤松の言葉がストッパーとなった。 「寂しくなるわねー、生意気な子分が居なくなるし。」 「俺がいつ和佐さんの子分になったんだよ。」 「出会った時からアンタは私の子分よ。」 「ケッ。」 (今俺の目の前にいる2人はもっともっと上の人なのに、こんなに親身になってくれた。なら俺はちゃんと返すには……。) 「水上。」 「ん?」 「俺、お前に見せても恥ずかしくないプレーをするよ。ちゃんと身体作って、そんで納得いく試合をして、勝って、ちゃんと自分を見つめて答えを出すよ。」  水上は心の中で勝ち誇った顔をした。 (なぁツワブキ先生、アンタはこんな真っ直ぐな覚悟の視線を向けられたことねぇだろ?この目をしたまっつんを見たことねぇだろ?やっぱりこの人の隣にアンタみたいな甘ちゃんは相応しくねぇんだよ。)

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