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マツダくんと戦友①
智裕は父と一緒に炎天下の都内を歩いていた。
「あづいよぉ……。」
「相変わらずだなこの坂……あぢー…。」
「オヤジぃ…もう言うなよぉ……あぢー…。」
JR品川駅から気温34℃の陽の下で坂道を登る苦行を強いられていた。
「オトン、もう俺あかんわー……。」
「なんやもうくたばるんか?情けないのぉ。」
「オトンが元気過ぎんねん……あぢー…。」
すぐ後ろから関西弁のやりとりが聞こえて智裕は振り向くと、ヘロヘロになった松田八良 とボディビルダーのような男性が歩いていた。
「あー…八良せんぱーい……。」
「あ?……トモちんかー……やっほー……。」
「お?君たしか“東の松田”くんか?ウチのバカが世話になっとるみたいやなぁ。あっはっはっはっ!」
こんなクソ暑い中、こんなに豪快に笑うのはこのガングロマッチョのおじさんだけだった。
「トモちん、これ、俺のオトン。」
「………マジすか⁉︎…あ、ダメだ。」
驚きで叫んだ衝撃で智裕はフラついた。
「がっはっはっは!右も左もこない軟弱で金メダルは夢なんやないかー?あっはっはっはっ!」
「オトン…もう、オトン見るだけで疲れるからさっさと…ホテル行くで……。」
(あのポジティブ体力馬鹿の八良先輩が気圧されて疲れてる……八良パパ、恐ろしい!)
世の中拓海のようなホワワンと優しい父親もいれば、こんな豪快な父親もいるのか、という世間の広さを感じた智裕だった。
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