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マツダくんと戦友③
そうしていると入口の方から4人に近づく人物がいた。
「あー!ハチローとシュンちゃん早かったんやね。」
智裕はその人物を見たことがあった。
(金子先輩に匹敵する仏顔の黒縁メガネの坊主頭って……福岡の隈筑 中央の正捕手……だよな?)
甲子園の決勝戦をテレビで見ていた智裕は、馬橋の金子もさることながら、相手校の正捕手にも戦慄した。
吠えて吠えて吠えまくって、悪魔のような顔をしていた。その時智裕は清田と今中に感謝した。
「ごごごごごご後藤礼央!」
中々選手の名前は覚えない智裕でも彼の名前はしっかり覚えていた。
「君は、東の松田くんやろ?話は2人から聞いちょるばい。俺んこつ知ってくれちょったん?」
「は、はい……。」
「恐怖の対象として」とは言えなかった。
「隈筑中央高校ん3年、後藤 礼央 っち言います。よろしく。」
「だ、第四総合の松田智裕です。」
「松田が2人もおるけん、俺もまっつんっち呼ばせてもらうばい。」
「はい。どうも…。」
タレ目タレ眉の優しい表情が、いつ悪魔になるのかと智裕は少し戦々恐々としながら握手を交わした。
「せやけどまっつん、良かったなぁ。」
「へ?」
「あー、トモちんって野球カード持ち歩くほど好きやったもんな、由比 壮亮 。」
「あ……そ、そうなんです!俺、マジで死ぬかも!」
「んな大袈裟やなぁ…。」
「だってだって由比選手っすよ!イケメンで美しい左投げのスリークォーターからの天才的なスプリットとスライダーはもう痺れるぅ憧れるぅ!」
今集まっているこのメンバーの中で実は1番浮かれているのは智裕だった。
「落ち着け」と頭を撫でてきた中川にキラキラとした目で訴えると、また1人近付いてきた。
まず黙ったのは八良、そして後藤、畠、中川。
中川の間抜けな顔に気付いた智裕はその目線を辿った。
「何だか賑やかな学生がいると思ったら、夏の甲子園のスター揃いだね。」
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