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マツダくんと戦友⑨

「松田智裕さん。」  検索していると声をかけられたのでスマホから目を離して顔をあげた。  そこには智裕より少し背の低い、坊主頭で、馬橋の金谷(かなや)や四高の清田といい勝負というくらい目つきが鋭く眉毛は太い睨み顔の男子がいた。  制服は、小田原の聖斎(せいさい)学園の夏服。 「えっと、どちら様?」 「聖斎学園、1年の島田(しまだ)(ツバサ)、投手です。」 「…あーあーあー!いた!1年生投手!ごめん、すっかり忘れてた。」  智裕は他人を覚えることが苦手だった。  しかし開き直ったようにヘラヘラした顔を島田に向けるとギロリと睨まれた。 「えっと、島田くん?」  その睨みにビビって智裕は声を震わせた。冷や汗も出てきた。隣で父は呆れたようにため息を吐いた。 「ごごごごめんなさい!本当に俺人の名前と顔を覚えるの超苦手でさ!はい!今覚えたー!なんなら通信のアドレス交換しようぜ!フリフリ機能でいい?」  慌ててマシンガン言い訳を始めて、スマホを差し出した。  しかし島田は益々睨んでくる。 「し、島田くん?」 「松田さん、単刀直入に言います。直倫を返して下さい。」 「はひ?」 (あれ?なんかこれまた同じこと言われてる?)  数日前に、聖斎の赤松直能(ナオタカ)にも同じことを言われていたのでデジャブな感じに智裕は戸惑った。 「えっと…そ、それは、何で俺に言うかなーってこと、なん、ですけど。」 「松田さんのせいで直倫は進路を間違ったんです。だから返してください。」 「いやいや、俺関係なくね?」 「直倫が今回のトライアウト受験してたのはご存知ですか?」 「…は?」  智裕は直倫が帰省する前日にも会っていたが、そんな話は寝耳に水だった。 「これがどういう意味か、松田さんにはわかりますよね?」  島田は真っ直ぐに智裕を見る。その鋭い眼光に捕らえられて智裕は逸らすことが出来なかった。 (俺や八良先輩は監督や連盟に指名されてそれを承諾して今に至る。だけどトライアウトを受験するというのは違う。畠ももっと上を、プロを目指しているから挑戦した。俺なんかより何倍も野心がある。今目の前にいる島田もそうだ。そんで…赤松も…。) 「マジかよ……。」 (そういや、直能さんから電話があったのって…全メンバーが公表された日だ。八良先輩から畠が代表に選ばれたって連絡来た日だ。あの日に、赤松は…落ちた。)  様々な辻褄が合い始めて、智裕は「うわぁ」と声をあげて片手で頭を抱えた。

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