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夏休み閑話【夏風邪】③
チャイムを押すが、勿論反応がない。
試しにドアノブに手をかけたら施錠されておらず、ドアが開いた。家の中に照明が付いておらず暗闇だった。
「拓海さん?入るよ?」
遠慮がちに入って、玄関の照明のスイッチを押すと、目の前に人間が倒れていた。
「うわぁあああああ!」
ヘタレな智裕は驚いてドアに身体をぶつけるまで後退した。
倒れていたのは靴を脱いだだけで力尽きている拓海だった。それに気がつくと、玄関に荷物を置いて家にあがって拓海を抱き起こした。
「拓海さん!大丈夫⁉︎」
「ん……あ、あれ?……智裕、くん?」
気がついた拓海は弱々しく瞼 を上げたが、熱に浮かされて焦点は合ってない。智裕が抱えるその体温はかなり熱かった。
「あーもー……ごめん遅くなって…大丈夫じゃないよね。立てる?」
「ん……立つ…けど……。」
智裕を支えに立とうとしたが足元がふらついて転びそうになる。智裕は「ふぅ」と集中して、拓海をお姫様抱っこで寝室に運んだ。
ボスン、とベッドの上に寝かせると、寝室の照明をつけた。
拓海の前髪は汗で濡れて額にへばりついている。
「拓海さん、苦しい?」
「ん……なんか…だるい……ゴホッ、ゴホッ…!」
「うわぁあ…大丈夫かよ……とりあえず着替えよ?汗だくだし…タオルとか勝手に出しちゃうよ?」
「ん……ごめ…ん……。」
智裕は拓海の額にへばりついた前髪を掻き上げると、拓海が安心するようにキスをした。
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