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夏休み閑話【夏風邪】⑦
智裕はすぐにキッチンに戻ってお粥の出来具合をチェックする。
そろそろだと溶かした卵を流し込んで刻み葱 を入れて蓋 をする。その間に買ってもらったコンビニ弁当をレンジで温める。
3分経ったくらいで、味見をして「よし」と判断したら器に盛り付けた。
棚からトレーを出して、お粥の入った器とレンゲと智裕用の箸、温まった弁当をのせて拓海が眠る寝室に向かった。
「拓海さん、起きれる?」
智裕はベッドに腰をかける。拓海は唸りながら体を起こす。拓海はお粥の器とレンゲを手にし、お粥をレンゲにひと掬いした。
「タマゴ粥、勝手に卵と小葱使っちゃった。食べれそう?」
「ん……。」
「少しだけでも食べなきゃ薬飲めないからね。」
掬 ったレンゲに智裕は「ふー」と息を吹いて冷ます。それを拓海の口元に持っていく。
「はい、あーん……。」
「………………え。」
「あ………ごめん…………昔の智之の看病のくせで、つい。」
「ち、違う、の!……えっと…嬉しくて……。」
甘えたがりの拓海だが甘え慣れていない様子だった。
その姿に智裕は悶えそうになったが、冷静を装ってニコリと笑う。
「じゃあ……あーん。」
「あー………。」
パクッと食べて、モグモグする姿が一層可愛らしく智裕に映った。
「え…美味しい……。」
「え?何でそんな驚くの?」
「あ……だって……智裕くんって料理しなさそう…だし……。」
「あー……俺んチも共働きだからちょっとは出来るよ?まぁ宮西たちほどじゃねーけど。」
「え、宮西くんってそんな出来るの?」
「あいつの作るハンバーグ、マジでレストランみたいなクオリティだから。つーか宮西んチはかーちゃんが夜いねぇから昔からあいつが夕飯作ってて、俺も少し教わったんだよな。焼きそば、チャーハン、カレーとか。」
智裕が指折り数えていると、拓海はまた嬉しそうに笑った。
「あ、笑ったな。拓海さんよりは下手くそですよーだ。」
そう拗ねると拓海はまた笑った。
「違うよぉ。また知らなかった智裕くんのこと知れて嬉しいなぁって。お粥も凄く美味しいし……風邪引いたのラッキーだなって。」
「ダメだよ、風邪引いたら茉莉ちゃんがパパに会えなくて寂しがるだろ?」
「……はぁい。」
(あれ?なんか立場逆転してね?なんで俺が説教してんだ?)
「はい、拓海さん。あーん。」
「あー……ん。」
少しずつ智裕が拓海の口に運び、器は空になった。
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