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オオタケくんの憂鬱③

 裕也は教室とは違う方向に逃げのびた。  振り返って直倫の気配が無いことが分かると、足を止めて「はぁ」と溜息を吐いた。 「どーすればいいんだろ……ほっとけばいいの分かってんだけどさぁ。」 「うーん…難しいね……。」  近くから聞き覚えのある声がして、何となくその方向に向かう。階段の踊り場で智裕と拓海(タクミ)が談笑をしているようだった。  裕也は気付かれたくなくて階段下に身を潜めて会話に耳を傾けた。 「でも俺は、智裕くんのお父さんの言う通りだと思うよ。決めるのは本人次第だし…俺だって高校から先の進路はやっぱり自己責任だなぁって……大学でこの街に来たことや、まーちゃんを育てるって決めたこと、大学も頑張って卒業するって決めたこと…全部俺が決めたことなんだから。」 「…そっか……やっぱ俺が口出しするのもおかしな話だよな。」 「その子は単純に赤松くんのことが好きで寂しいのかもしれないよ?ずっとやって来た仲間なら、そう思いたくなるものじゃないかな?」 (赤松くん、って、これって直倫のこと、なのか?) 「ついでに言うと赤松の兄貴にも、赤松を聖斎に返してって言われた。あいつの将来考えたら四高(こんなとこ)にいちゃいけないのは分かってんだ。赤松がもし聖斎だったら多分日本代表になってた……だけどなぁ…。」 (直倫の将来……?) 「あー!もう!俺だって自分のことでいっぱいいっぱいなのに何で赤松如きのことで悩まなきゃいけねーんだよ!ツワブキ先生!俺に癒しを下さい!」 「ちょ、ダメだよ!まだ…学校だってばぁ……。」 「大丈夫だって、3分だけ…ね?」 「そんな、の……んん……んむ…。」 (あいつバカじゃねーの⁉︎こんな踊り場で盛りやがって!)  幼馴染の濃厚なキスシーンを聞きたくなくて耳を塞ぎながら裕也はその場を忍び足で離れた。

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