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ホシノさんとツワブキ先生①
放課後、裕紀は教室から出て職員室に入り、給湯室を覗くと拓海がいた。
「お疲れ様です。」
「あ、星野先生、お疲れ様です。」
声をかけたらクルリと裕紀の方を向いて天使のような笑顔を向けた。
裕紀は「ふっ」と笑い給湯室のシンクの前に立った。
「あ、あの…星野先生。」
「何ですか?」
「ちょっとお話ししたいことがあるんですが、宜しいですか?私的なことなので手短に済ませたいのですが。」
「はい…いいですけど。」
拓海が困ったような顔をしてそんな話を持ちかけるので、裕紀はまた智裕とのことかと思って「くく」と笑った。
いつものように社会科準備室に入って、裕紀はいつもの椅子に、拓海は生徒用のパイプ椅子に座った。
「あ、あの……星野先生、俺のこと、知ってたんですね。」
「……は?」
「先生、石蕗 成海 と知り合いですよね?俺の10歳上の姉の…。」
「………ああ、そうだよ、拓海くん。覚えてないかな?」
裕紀は「降参」とでも言うように髪をかきあげて、椅子にもたれかかる。
拓海は久しぶりに呼ばれるその呼称に照れて俯く。
「先日、江川くんから少し相談を受けて…それで大阪でのお話を聞きました。それで思い出しました、星野さんのこと…それと、萌香さんのこと。」
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