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ホシノさんとツワブキ先生②
ドクン
裕紀の動きが止まって、心臓が跳ね上がった。
「とても強い姉があんなにも弱々しくて、死んじゃうんじゃないかと思ったのは後にも先にもあの日々だけです。萌香さんが死んでしまった日……そして、俺の実家の玄関先で姉が泣きながら怒鳴っていたことも思い出しました。」
_なんで萌香が死ななあかんの!星野ぉ!答えろやぁ!
裕紀も思い出してしまった。
忘れようと奥底に仕舞っていた記憶が、走馬灯のように脳を駆け巡る。
星野は机に肘をついて、頭を抱えた。
痛み出すのは脳ではなく、心だった。
「そうだね、石蕗にあんなに何度も何度も怒鳴られて…忘れる方が難しいよ、いくら拓海くんが幼かったとしても。」
「……萌香さんのことは忘れられないのは、俺は仕方ないと思います。だけど、それと江川くんのことは別です。」
聞いたこともない拓海の厳しい声に、さすがの裕紀も堪えた。
「どういうこと?」
「その…俺が偉そうに言える立場じゃないんですが……江川くんは恋も知らない、全部星野先生が初めてなんですよね。ハッキリとしてあげないと、心が壊れてしまうかもしれませんよ。彼は強く見えるかもしれませんが……危ういと思います。」
「…一起が?」
「ええ……これは養護教諭としても伝えたいことでもあります。江川くんが引き返せなくなる前に、星野先生がしっかりと気持ちの整理をつけてください。大阪に行く前に…。」
_どちらも、思い出してしまうだろうから。
拓海の言葉は裕紀にとって重い鉛玉を打ち込まれたようだった。
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