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交錯する気持ち①

 智裕は10月の出席のことで裕紀に相談する為に職員室へ行ったが、裕紀が何処にもおらず職員室の廊下で立ち往生していた。 「松田くん。」 「おう、井川。」  智裕と同じ方向からスクールバッグを持った井川がやって来た。 「井川もほっしゃんに用事?」 「うん…そうだけど。」 「今いねーってよ。ちょっとしたら戻るかもだから待っとけって言われたんだけど。」 「そ、そうなんだ…。」  井川は困ったような表情を浮かべて、智裕は呆れたようなため息を吐いた。  そして窓にもたれかかって、井川の方を見た。 「ここで一緒に待ち伏せとこーぜ。」 「え……で、でも松田くん部活は?」 「ちょっと遅れるって言ってるからヘーキ。暇だし話そうぜ、折角今度同じ班になったんだしさ。」  智裕は井川に笑顔を向けて、隣に来るよう促した。  井川は少し顔を下に向けて智裕の隣に立って、同じように窓にもたれた。 「井川、最後の2日はごめんなー、一緒に行動出来なくて。あのカップルと1人ってキツイよな?」 「ううん、大丈夫だよ。優里ちゃんたちとも一緒に行くし、U●Jも…。」 「あーU●J行きたかったー!何で俺は大阪の山奥に隔離なんだよ!」 「で、でも…私なんかと一緒でも楽しくなんて…。」 「何で?絶対俺宮西たちから遊ばれるんだから優しさ要員の井川いなきゃ楽しくねーよ。」  智裕の無自覚な言葉に井川の胸は高鳴る。 「それにこの前も…ほら、雑誌見ながら俺めっちゃディスられまくってたのに、フォローしてくれたの井川だろ?あんがと。」  女子たちに「シケメン」「顔がだめ」「打撃がゴミ」などなどと言葉のナイフを刺されまくっていた中、井川は「でもかっこいいよ」などの言葉をかけていた。  ニカッと笑ってお礼を言う、その仕草を井川は直視出来なかった。 「ま、松田くん…すっごい頑張ってるのはみんな知ってて……た、多分照れ隠しだと思うよ?私はそんな親しく出来ない、から…素直に言っちゃうけど…。」 「え?でも一緒に教科委員やったじゃん。俺、井川とは女子の中じゃ割と仲良い方だと思ってたんだけど。」 「そうなの?……え、意外だった、んだけど。」 「マジー⁉︎えー、ショックだわー。」 「ご、ごめんね。」 「ごめんで済んだら警察いらねーっつの。」  拗ねた顔をわざと井川に見せると、井川は慌ててしまう。井川がシュンと落ち込むと智裕は無邪気に笑った。 「あははは!ウソウソ、ごめん。」  そして井川を慰めるように頭をポンポンと撫でた時だった。

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